夫のこと

夫が作ってくれた『家族の心理的安全性』

 夫のどこが好きなのかといわれると、たくさんありすぎて困る。大きな体も好きだし、いっぱい食べるところも好き。寝てるのも可愛いし、起きてるのも可愛い。1から10までどころか、0から100くらいまで可愛い。私の最推しは夫。

 こんな感じで、盲目オタクのように毎日夫に「可愛い、好き」と言い続けているが、実は自分の中で最も好きな点というのは「理解できないことを具体的に言語化してくれるところ」だと思っている。しかしそれには具体的な名前がない。何なのかわからなさすぎるのであまり人にも話したことがない。これは夫の「名もなき能力」なのである。今日は、この名もなき能力がもたらした家族のお話をしたい。

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 最近気づいたことだが、夫はどうも受動型ASDの気質があるようだ。そのせいか夫と私は脳の作りが違うなと感じることが多々ある。彼が何を考えているかわからないことがよくあるのだ。逆に彼も私が何を言ってるかわからないことがあるらしく、そういう場合にかなり詳細に考えていることを教えてくれる。それが非常に家族のタメになっている。

 ASDの特徴として「言外の意図が伝わらない」というものがある。さらに「自分のルール外のことを想像できない」という特性も相まって、コミュニケーションがスムーズにいかないことがある。例えば「冷蔵庫にあるカレーを取り出して」と伝えても、カレーがいつもと違う容器に入っていたら夫はそれを認識できない。こういった時に彼は「いつもと違う容器だったからわからなかった」というように説明してくれるのだ。説明がなければ、目の前にあるのになぜ出してくれないのか?と感じるところを、きちんと話してくれるので対策が取りやすい。次回から「赤いお鍋に入ったカレーが冷蔵庫にあるから取り出して」と伝えればいいのだ。

 実は私の息子もASDである。彼は夫の実子ではないが、ASD男子ということで夫と思考の特性が似ている。夫の説明は息子とのコミュニケーションにも非常に役に立っている。今まで散々療育の現場や医師に特性について説明されていたのに、実践となるとやはりよく理解できていなかったのだなと思う。

 さらに夫がもたらした最大の功績は「家族間の心理的安全性の確立」である。心理的安全性とは、他者からの反応に怯えたり羞恥心を感じたりすることなく自然体の自分をさらけ出せる環境のことを指す。主にビジネスの現場で使われる心理学用語ではあるが、家族や恋人同士、友人間でも大切なものだと思っている。
 夫は「もっと具体的に説明してくれないとわからない」「君と僕は違う」というようなことをはっきりと笑顔で伝えてくる。まさに心理的安全性が確立されている状態である。そしてこれが、息子にも連鎖した。
 息子は幼い頃からわからないときに黙り込んでしまう子だったのだが、最近は「ママが何を言ってるのかわからない」「僕が言いたいことは違う」と伝えてくるようになった。

 なんかもう、すごいやばい。突然に語彙力がダメになってしまうほどにすごい。家族間のコミュニケーションがスムーズすぎる。夫と結婚してから腹が立つことがほぼない。トラブルが全然起きない。人生がうまくいきすぎる。
 いやしかしそれでもある。息子の考えていることは度々わからなくなる。けれどそういう時は夫に尋ねればいいのだ。まるで取扱説明書のように「彼は今こう思っている」「君はこうすべきだ」と、教えてくれる。ありがたや!夫!すき!ラブ!来世でも結婚して!

ABOUT ME
ichinooikawa
編集・ライター・ステップファミリー・ホームパーティーマニア。猫と夫と息子と娘。20時以降は飲酒している。夫と漫画が大好き。