育児のこと

ぴぃちゃんとインドカレーとジャニーズ

 先週土曜日、「ジャニーズのYouTubeが見たいから」という理由で娘が保育園をさぼった。彼女は、ママが仕事をしているときはYouTubeを見ていいというルールを利用して、朝から楽しそうに踊り狂っていた。

 娘はジャニオタである。なぜそうなったのかは本当によくわからない。保育園のお友達がプリキュアやディズニープリンセスのお話をしている間、彼女だけずっとジャニーズアイドルの話をしているらしい。ジャニーズが娘の自我の芽生えを促進しているようだ。
 来年小学校への入学を控えて、最近はお留守番をすることも増えてきた。中学生の息子と愛猫が2匹いるので、まるっきり一人というわけではないが、いつも私にベッタリだった娘が「Snow ManのYouTubeが見たいからお留守番する」と言い出したのには本当に驚いた。ジャニーズが育児の介助までし始めた瞬間である。

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 土曜12時過ぎ、一通り仕事を終えて娘に「お昼は何が食べたい?」と尋ねると「どうしてもラッシーが飲みたい」と言われた。コーラよりもラッシーが好きになっちゃった、そうだ。それならということでインドカレー屋へ行くことにした。
 平坦な道を電動自転車で走る。娘は「100均でシールを買いたいからマルイにも行こう」と後部のベビーシートから声をかけてくる。とてもベビーシートに乗るような年齢の子の提案には思えないが、彼女は2歳くらいからこんな感じだ。現実主義でありながら、想像力が高い。
 マルイに行くという提案に、「いいね!じゃあママはバッグを買っちゃおうかな?」と答えると「パパには内緒で行っちゃう⁉」と、娘。最近、「パパには内緒」と「女の子だけの秘密」にハマっている様子の彼女である。おそらく保育園で覚えてきたのだろう。秘密の話をするとき彼女は驚くほど大人びた表情を見せる。
 10分ほど自転車を走らせると、インドカレー屋についた。店内は混んでおり、マスクをして料理を待っている人が3組ほどいた。コロナ禍初期の頃、街中でビラ配りをしているネパール人店長を見ていたので、少し安心する。いつも娘に「カワイイね」と声をかけ、「ナンおかわりは?」と何度も聞いてくれる優しい店長だ。ちなみに、ナンをおかわりしたことは一度もない。
 娘と私はメニューを一通り眺めた後、キッズカレーセットとシーフードカレーのランチセットを頼んだ。どちらにもラッシーをつけてもらい、私の分のラッシーは娘にあげた。注文後早々にラッシーが2つ届き、娘の目はキラキラと輝いていた。
 しばらくの間、ラッシーを飲みながら料理を待っていると娘がおもむろに映画『キングダム』の話を始めた。今年の5月に金曜ロードショーで放送されたのを見て以来、彼女のお気に入りの映画となっていた。

娘「ぴぃちゃんさ、キングダム出るって言ったじゃん」
私「うん」
娘「あれ、やめようと思って」
私「どうして?」
娘「キングダムに出たら、ジャニーズにも会えると思うんだけど」
私「うん?」
娘「ジャニーズに会ったら、ぴぃちゃん可愛いって言われちゃうよ」
私「うん…?」
娘「それは恥ずかしい。だったらやめておく」
私「うん……?」

 娘の自尊心が斜めに尖っている。彼女がキングダムを見て自分も出たいと考える、それはまだわかる。急になぜジャニーズが出てきたのかよくわからない。おそらく娘の中で芸能界というものがぼんやり繋がっていることに気づいたのだと思うが、さらにそうなってしまうとジャニーズに「可愛い」と褒められる未来まで想像できてしまうなんて。非常にクリエイティブであるといえる。
 続けて娘はこういった。「漂(吉沢亮)には会いたかったけどね」。そうなのか。

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「キッズカレー、チキンの甘い味。シーフード、少し辛い味」
 いつものネパール人の店長が片言の日本語でカレーを持ってきた。娘が頼んだメニューはキッズカレーといえど、大きめのナンとカレー、サフランライスがモリモリと盛られていた。けれど大人用のナンはそれよりも遥かに大判だった。半分以上残してしまったので、次回から半分でいいと伝えようと思う。娘はキッズカレーをきれいに完食した。ちょっと驚いた。
 料理到着から30分ほど経った頃、「マルイに行こうか」と娘に声をかけた。しかしここで娘は「うーん。ラッシー飲んだら帰りたくなっちゃった」と言い出した。さらに驚いた。

私「えっ、マルイは?」
娘「ぴぃちゃんは帰りたい」
私「え、なんで!? マルイ一緒に行こうよ」
娘「ママはマルイに行きたいのかもしれないけど、ぴぃちゃんは家に帰ってSnow Manが見たい」

 どういうことだ。マルイに行こうと提案してきたのは娘の方なのに、自己中すぎる。完全にマルイの気分になっていた私は焦って「シール買ってあげるから」とか「本屋でぬりえ買ってあげるから」などと誘惑してみたが「いや、どうしても今Snow Man見たい」という。今どうしても見たいアイドルって何だ。衝動がオタクすぎる。
 結局彼女は一切折れなかったので、自宅に送り届け、私はひとりでマルイに行くことになった。およそ3時間かけてワンピースとシャツを3枚、トートバッグを購入した。
 帰り道、イヤホンを片耳だけにつけて音楽を流して自転車を漕いだ。カゴいっぱいに紙袋を詰め込んで、私は満足していた。娘が来ないと言った時は自己中すぎると思ったが、子育てをしていてこんなにゆっくり買い物をしたのは久々だった。娘とジャニーズが与えてくれた、些細な余暇であった。

ABOUT ME
ichinooikawa
編集・ライター・ステップファミリー・ホームパーティーマニア。猫と夫と息子と娘。20時以降は飲酒している。夫と漫画が大好き。