夫のこと

夫が私に隠れてホワイトデニムを履いていた話

夫が私に隠れてホワイトデニムを履いていた。絶対に嫌だと言ったのに隠れて所持していた。優しくて丁寧で、いつもにこやかなあの夫が! 私のことを裏切っていたのだ! 呪われしあのホワイトデニムで!

因縁の始まりは、さかのぼる事三年前の話になる。当時私は離婚をしたてで、男性に対し威圧的な感情があった。自分の至らなさや未熟さを棚にあげて、男性全体に嫌悪感を抱いていた。中でも、なぜかホワイトデニムを履いている男性にとにかくめちゃくちゃにブチキレていた。
更にその気持ちが表面化してしまい、Twitterで「ホワイトデニムを履いている男何なの?」と、言ってしまった。公共の場で大多数のホワイトデニム勢を敵に回してしまうなんて、めちゃくちゃ勇気ある。さすが29歳。ギリギリとはいえ、20代の勢いは違う。今の私には絶対に出来ない。本当に今となっては、他人のファッションに何をそんなに怒っているのだと笑ってしまうが、当時私は色々な事に傷つき、手負いの獣のように攻撃的だった。誰にも追い詰められてはいないのにとにかく色々なことに腹を立てていたのだ。

そんな状況の中、当時の友人であり現在の夫となる人物が私にこう言った。「ごめん! 俺謝らないといけないことがあるんだ! 俺、ホワイトデニム持ってるんだ……!」。
彼は電車で一時間もかかる距離までわざわざやってきてホワイトデニムについて謝罪してくれた。まるで銀貨30枚を抱えた裏切り者のユダである。

ここで話を分かりやすくするために、我が家の事情を説明すると、当時シングルマザーである私の家に、5つ下の実弟が居候していた。東京で就職したいとかだったらしいが特に就職はせず、やたらと家にいたことを覚えている。というわけで弟に子守を任せて、私は彼と一緒にドン・キホーテにいた。
なんでデートでドン・キホーテなんだよ……という気持ちが沸いたと思うが、読者の皆様同様私も全く同じ気持ちなので安心してほしい。なんでドン・キホーテなんだよ!
ドンキはさておき、なぜこの日彼が我が家に来たのか? というと、本人曰く「お付き合いさせていただくために、きちんと言いたいことがある」とかなんとかだった。私はその言葉に多少なりとも舞い上がっており、「ごめん、彼が告白してくれるっぽいから子供たちを見てくれないかな??」と、弟にお願いをしての夜デートだったのだ。

しかし、彼は待てど暮らせど告白なんかしてこなかった。彼はドンキの後、焼き肉屋でひたすらに酔っぱらい、ホワイトデニムの謝罪をするばかりだ。
焼き肉デートの後、弟のいる我が家で酔いの覚めた彼が「俺、ちゃんと君に言った!!??」と大慌てで聞いて来た。

「いや、何も聞いてないよ」
「ホワイトデニムについて謝っただけ!!!?」
「まぁ、そうだね」
「ごめん……また来てもいいかな?」

ということで、なんと彼は翌日もまた来た。
弟はその話を聞いて「そんなことある!?」と言っていた。さすが姉弟、私も全く同じことを思った。
二日連続子守を任せるのは弟に申し訳なかったので、翌日は私達家族と彼で食事をとり、その後彼はきちんと告白してくれた。家で。

ホワイトデニムのせいである。私のホワイトデニムへの怒りが彼をこうもふざけさせたのだ。やはり怒りはいいものを生まない。自分だけならず、他人への悪影響も憚らないのだ。

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その後、流されやすい彼はホワイトデニムを処分したと言っていた。片道1時間の通い愛を貫き、昨年やっとの思いで結婚まで持ち込んだというのに、実はまだ持っていたのだ。あの日呪われしホワイトデニムを。

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オッ、、。

無理だ。無理すぎる。ホワイトデニムの癖に黄色すぎるし黒すぎる。
私達は今夜、この汚いホワイトデニムを発端に、初めて本気の喧嘩をするかもしれない。

ABOUT ME
ichinooikawa
編集・ライター・ステップファミリー・ホームパーティーマニア。猫と夫と息子と娘。20時以降は飲酒している。夫と漫画が大好き。