生まれて初めて猫を飼うことになった。元野良猫のキジ白。夏生まれだから『なぎさ』。苗字と並べてみて字面がよかったので、漢字は『凪咲』にした。
猫について考える
私は猫を飼ったことがなかった。さわったこともなければ「可愛い」と思ったことすらなかった。なのにどうしてか、去年の夏ごろから急に猫のことばかり考えるようになった。大体、半年くらいずっと猫のことを考えていた。
「猫飼い メリット デメリット」「猫 大変」などのキーワードで検索する日々。飼った経験がないので、何ひとつイメージが沸かない。途中、保護猫カフェに行ってみたが、そのカフェが臭くて不衛生だったため「猫を飼うとこうなるのか……」と感じてしまった。それから三ヶ月ほど猫のことは考えないようにした。
そんな中、ふと出かけた旅行先に猫がいた。三匹の猫が、代わる代わる部屋にやってくる不思議な旅館だった。これが、めちゃくちゃ衝撃的だった。家族の中に猫がいるだけで、フワワワワ~~~と周辺の空気が暖かくなるのがわかる。なんとも言葉にしがたい猫の存在感。突然森林の中に放り込まれたような、お高い空気清浄機を使用した時のような、それのどれにも当てはまらないような、とにかくめちゃくちゃに癒されていくのを感じた。
旅館にいた三匹は全員元野良猫らしい。全く臭くないどころか、ちょっといい匂いすらした。猫の匂いは飼い主の飼い方によるのか? などと思った。三匹のうちの一匹は片目がなくて、その猫がなぜかやたら部屋に居座っていた。私の布団で寝たり、部屋食の最中に私の膝に登ってきたり。胸の奥にポッと明かりを灯されたような経験だった。
その日から私はまた、猫のことばかり考えるようになった。
触れない猫
翌週、家族で譲渡会に行った。里親の申し込みをしたが、あっさりと抽選に外れた。インターネット上で気に入った猫の里親に応募したり、都内の猫カフェに出向いたり。とにかく色んな猫に会った。どんな猫でも縁が繋がればいいと考えていたので、模様や年齢は関係なく探した。けれどなかなか縁に恵まれない。そんな中、猛烈に目が合ってしまったのが凪咲だった。
里親募集の掲示板。写真の凪咲は、小顔で美人でなんかジッとこっちを見ている。すぐに、「この子がいい!」と申し出ると、「保護してから一年うちにいますが、いまだに触れません。初めて猫を飼うのに触れない猫でいいのですか?」と聞かれた。
そこは別にどうでもよかった。そんなことより、どうしても「この子がいい」と思った。そのときの気持ちはうまく言語化できない。とにかくこの子がいい! と思うと、涙が出そうだった。
そして実際に凪咲と対面したとき、やっぱり涙が出た。「こんなに可愛いのにどうして貰い手がなかったのですか?」と聞いたら、「真っ白とか真っ黒が人気で、どろぼう柄が人気ないからかなぁ?」といわれた。口元についている茶色い模様を、どろぼう柄というらしい。私はそこが猛烈にかわいいと思ったんだけど。
うちの子ビフォーアフター
それからはもう、すぐだった。急いでゲージやトイレを用意して、家中の窓や玄関に脱走防止策を施して。譲渡費用とエサと猫セット、諸々含めて8万くらい。
これはうちに来て一日目の凪咲。段ボールに隠れて怯えてしまって可哀相に! でも大丈夫だからね!!! ここはなーちゃんのお家だからね!! 自由に過ごしていいんだよ~~!!! はっ! 思わず話しかけてしまった。
話を戻す。凪咲はこの日から二週間のトライアル期間を経て、正式に私たちの家族になった。トイレは完璧、ちょっとシャイ。でも見つめると何度も瞬きで返事をしてくれる。隠れて私の椅子で爪とぎしている、猫の形の天使だと思う。
これは最近撮った一枚。一ヶ月半でだいぶお顔が穏やかになったような気がする。相変わらず全然触れないというか特に誰も触ろうとすらしていないのだが、それでも愛情はちゃんと伝わるのか、凪咲はどんどん美人になっていく。猫も、人と同じように環境で顔が変わるのだ(初めて知った)。
猫が家族を選ぶ
猫を保護した人を「保護主」と呼ぶらしい。そして、保護主から里親のところに行くまで猫を預かってくれる人を「預かり」というらしい。先日、凪咲の預かりさんから、このようなメッセージが届いた。
『お見合いの時に「こんなに可愛いのになぜ貰い手が決まらなかったんですか?」と聞かれて私はうまく答えられませんでした。でも、それが今わかりました。凪咲は及川さんのことをずっと待っていたのです。猫が里親さんを決めるといいます。凪咲を見つけてくれてありがとうございます』
メッセージを読んで、また泣いた。
でも、これって本当だと思う。だって、思い返すと急に猫のことばかり考えるようになるって、おかしい。これまでの人生で一度も関わったことのない動物の事を突然考えるようになったのも、絶対に「この子だ!」と思ったのも。きっと、凪咲が私にテレパシーしたんだと思う。「私のこと見つけて」って。