アイドルとファンは似てくる。例えばKinkiKidsのファンは「図書委員」と呼ばれているらしい。おとなしくて気持ちが優しい子が多いということを、メンバーである堂本剛くんが言ったことからついた名前なんだそうだ。
きっとこれは剛くんが優しいから、見ていると優しくなれるのだと想像する。私はKinkiKidsのファンというわけではないが、時折剛くんのラジオを聞くので少しだけその感覚がわかる。彼はとにかく気持ちが優しい。言葉選びも美しい。そんな彼を応援していると、知らず知らずのうちに優しさが連鎖してしまうのだろうと思う。
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さて、私が今日話したいのは剛くんのことではない。タイトルの通り、手越祐也である。はじめに言っておくが私は手越およびNEWSのファンではない。ゆえに、「大好きですべての動向を追いかけています!」という状態ではないということを加味した上でこのテキストを読んでほしい。
2020年6月19日、手越祐也がジャニーズ事務所を退所した。同時にアイドルグループNEWSからの脱退となった。彼の脱退は、ファンではない私にもなんとなく予測できた。いつからそう思っていたかはっきりとは不明だが、昨年の11月音楽番組を見ながら「君こそスーパースターだよ。がんばれ、がんばれ……」とツイートしている。なんとなく危ういな、というのが伝わってきたのだと思う。それ以外に彼について話しているデータは見つからなかった。まぁ、私と手越の関係性ってそんなものである。
けれどTwitterで彼のファンをずっと見ていた。特にわざと追いかけたわけではないが、たまたまフォローしていた人がファンだった。彼女たちは手越が緊急事態宣言中に外出したところくらいから、あからさまに情緒不安定になっていった。正確にいうとNEWSのファン自体2017年くらいから雲行きが怪しかったが本日は割愛する。
現在日本はコロナ禍である。日本中どころか世界中の人が生活スタイルを変えている。小池百合子風に言うと、新しい生活様式というやつだ。様々なイベントが中止され、友人や離れて暮らす家族にすら会えない日々が続く。例に漏れず手越が在籍していたグループNEWSもコンサートツアー『STORY』を中止した。けれど手越は、そんな最中に二度も夜遊びをすっぱ抜かれてしまった。文藝春秋本当マジ。
まだコロナでどれほどの人が死ぬのか予測がつかない時期に堂々と飲み歩いていたり、安倍昭恵夫人と花見をしていたりしたのだ。そりゃファンも「おいおい、大丈夫か」と思うだろう。それからNEWSの残っているメンバーのファンも「ちょっと……NEWSに迷惑をかけないでくれない?」というような空気を出していた。応援しているアイドルグループのメンバーが政治色の強い女とコロナ禍に飲み歩く。突っ込みどころが多すぎてタップする指が追い付かない。
そして正式な退所報道が出た。この時の手越ファンの落胆ぶりはすごかった。最も残念だった点は前述した『STORY』というコンサートツアーである。これはNEWSのグループ名のアルファベットをひと文字ずつ取って、『NEVERLAND』『EOCOTIA』『WORLDISTA』『STORY』というように、4年もの歳月をかけて物語を作っている途中だったのだ。
NEWSはジャニーズ事務所の中で一番といってもいいくらいコンサートにストーリー性を持たせるグループだ。つまりファンの気持ちは、「は? 私たち4年前から何を見せられていたの?」である。この物語を一度も見たことのない私ですら、あまりにも身勝手なのでは……という印象を受けた。
退所報道から4日後、会見が行われた。先ほど確認しにいったらその動画はしっかり1000万回再生されていた。私はこの会見をほぼ見ていないが、Twitterで流れてきたファンの認識としては「つまりクビだったのね……」という感じだった。
それから一ヵ月の間、手越は活動の場をYouTubeに移し「モー娘。オタクだった過去」や「新居への引っ越しの様子」などを配信していった。これまた私はひとつも見ていないがファンの反応は「そんなことまで言っていいの……」だった。ごもっともな反応である。天下のジャニーズ事務所で16年間ぬくぬくと守られてきた手越の赤裸々なプライベートを突然突き付けられ、見ているこっちは一体どうしたらいいのか。これまで有料会員サイトですらほとんど見せてくれなかった自撮りが無料で流れてくる。どういう反応が正しいのかわからないのだ。
そして2020年8月5日、手越祐也初のエッセイ本『AVALANCHE』が発売された。この本を読んだ手越ファンの動きは、あまりにも衝撃的だった。長々と書いてしまったが私が話したいのは何を隠そうこの日のことである。
私はこの本を買っていないが、中身を所々知っている。ファンたちが本の中身をTwitterで晒し「モラハラじゃん!」「NEWSのことそんな風に思ってたなんて許せない!」と怒っていたからだ。さらにもはや手越自身と全然関係性のないBTSファンまでもが怒っていた。エッセイには、ルッキズムや優生思想、男尊女卑などなど、問題のある価値観が多くみられた。ジャニーズ事務所が隠し通した16年目の真実である。
これは本当に驚いた。手越の周囲によくない大人がいる……。大多数の人間が読んで不快感を覚える本ではあるが、これで大儲けした人がいるはずなのだ。良くも悪くも話題になれば、売り上げはあがる。しかし手越の今後の活動を思うと非常に悪手であることは間違いない。まともな人間なら、もう二度と彼を信用しないだろう。沢尻エリカなんか、一度しか会ったことがないほぼ他人なのに勝手に名前を出されているのだ。私が沢尻なら「てか誰?」と思うに違いない。今初めて「自分が沢尻エリカなら」という謎の妄想をしてしまった。手越の影響おそるべし。
本の発売後、手越のTwitterのフォロワーは万単位で減っていった。さすがにもうついていけないと感じたファンが脱落していったのだと思う。彼女たちには、心からお疲れ様と伝えたい。
ここで注目したいのは同日に開設されたファンクラブである。エッセイに呆れて入会しなかった人が多いのだと思うが、開設日当日の夕方の時点で、会員数は1万人以下といわれていた。NEWSのファンクラブが少なくとも36万人の会員数を誇っていたことから比較すると、非常に少ないと感じる。「自称スーパーポジティブ人間」の手越も、これはさすがにやばいと思ったらしい。翌6日、Instagramのストーリー機能を使って弱音を吐いた。「あー少し疲れたなぁ。俺も人間だった。たまには弱音(原文ママ)」。
ファンではない私からすれば、あなたよりNEWSのメンバーの方が疲れ切っているだろうという感じだったが手越ファンは違った。それまで散々文句を言っていたのに「ファンクラブの会員数伸びてなくて悩んでるのかな……可哀相……」と言いながら、なんとファンクラブに入会したのだ。それも1人や2人ではない。何人ものファンが手越の弱音を聞いて入会金を支払ったツイートをしているのを見た。
恐ろしいものを目にしたと思った。感情をグチャグチャにかき乱されて、それでも手越から離れることができないのだ。まるでDV被害者ではないか。前日までめちゃくちゃに罵倒していた相手にお金を振り込むなんて、情緒が安定していなさすぎる。ただ楽しくアイドルを応援していただけなのにこんな展開。あまりにも可哀相である。しかし手越自身が不安定なのだ。ファンにも連鎖してしまっているのだろうと思う。
昨今アイドルはビジュアルよりも人間性が大切だといわれている。まさしくそれを痛感した出来事であった。もしも手越本人に会うことがあれば「ファンの気持ちを一番に考えてあげて……!」とだけ、伝えたい。
しかしここまでファンを辟易させる男を16年もの間守り抜き、作り上げたジャニーズ事務所、見上げたマネージメント能力である。